住宅の重心

益子義弘氏は、部屋、あるいは住宅全体を設計する際に、「重心」という言葉を使う。
皆のよりどころとなるような、意識の上での重心のことである。
一人であろうと、大勢であろうと、ついついそこに向かってしまうような、居心地のよい場所のことである。
益子氏の場合、その重心は、敷地の捉え方から既に始まっている。
敷地の特徴から、内外を活かせる建物の配置を決定し、建物から見える景色などをたよりに居間の位置を、さらには部屋の中での特等席の位置を決定する。

しかし、住宅が存在する目的、周囲の環境、自分のコンディションなど、絶えず変動する要素が重心の厳格な決定を阻む。
様々な状況を想定し、バランスをとろうとする結果、できあがる住宅は、実に「普通」である。
よく練られた合理的な矩形平面に対し、室内に動きを作り出す傾斜のある天井、木を多用する、北欧あたりの影響も感じられるスタイルなど、個性もあるのであるが、一見してまず、「普通」であると感じる。「あるべくしてある」というような感覚。
「重心」を捉えようとして得られた成果であろうと思われるが、その心地よさを言語化するのは困難である。

前へトップページ次へ | TT | 2008/8/23